2019年3月28日木曜日

"Dear Evan Hansen"ブロードウェイミュージカルのあらすじと感想

Playbill: Dear Evan Hansen(ディア・エヴァン・ハンセン)
久し振りにお友達に誘われて、勢いでブロードウェイのマチネへ行ってきました。
一昨日彼女から突然電話、
『今"Dear Evan Hansen"のラッシュチケット買うのに並んでるんだけど、明日のマチネ一緒に行かない?$42だよ。』

ここ数年全くブロードウェイからは遠ざかってたので、どんなプロダクションからも分からず、とりあえず空いてるから大丈夫だよ。と軽いフットワークで昨日行ってきました。

昨日はお天気で歩くにはとても気分が良く、地下鉄の乗り換えもスイスイ。42nd駅で降りて常にごった返すタイムズスクエアを避けて8 Avenueまで出て45thストリートまで北上。45丁目の劇場街へ折れた途端に目に飛び込む群衆。反対側のB'wayから45th丁目の両脇にずらっと並ぶ劇場めがけて人々が押し寄せ、どの行列に並べば目的の劇場へ入れるのか確認して歩いてくる訳です。

Music Box Theater
「うーん、平日の日中なんだけどね、これがブロードウェイですよ。」とひとりごち、これが嫌で私はここに来られなかったんだなと思い出しながら、 待ち合わせの1時半にMusicc Box Theater前に到着。目的の行列に並んで、やっとセキュリティーを通って友達と合流。
マチネの劇場街の行列

チケットを見たら、オーケストラの立ち見席でした。
「ごめんね。ラッシュチケット買う時は、どの席がわからないのよー 。」
まあ、立ち見は全く問題ではなかったですね。ブロードウェイの立ち見と言っても、ちゃんと立つ位置に番号のプレートがあってオーケストラ(一階)の後ろだから、真正面でオペラグラス無しでちゃんと見えるんです。壁にもたれかかって見ることが出来るので、意外と楽です。でもスニーカーで行って正解!
開演前の舞台は既にライトアップされていて、観客の期待感を誘います。背景は今時のSNS画面とエヴァンのベッドルーム。バンドはキーボードやギター、打ち込み等のエレクトリックバンドで、ステージ左上の桟敷から伺えます。
開演前の”Dear Evan Hansen”
オーケストラ立ち見席からの様子


*あらすじ*
主人公のエヴァンは両親の離婚で7歳から母子家庭で育った高校生。お母さんが看護婦をしながら一生懸命育てますが、彼は対人恐怖症で、学校でも目立たずオタクな生徒で、親友と呼べる友達がいません。

彼が木から落ちて左腕を骨折しても、誰もギプスにメッセージや名前を描いてくれません。(アメリカではお友達の骨折が早く治るようにギプスにメッセージや名前を書く習慣があります。ギプスが真っ黒になれば、お友達が多い=人気者ということになります。でも、ある意味でこれはエヴァンの様に友達のいない子にはプレッシャーになりますよね。)

エヴァンのお母さんはそんな内向的なエヴァンを心配して、精神科の診察を受けさせお薬を処方してもらったり、自分に宛てた手紙を書く治療法を提案してもらい、エヴァンに手紙を書かせます。

ある日の放課後、学校のパソコン教室で自分宛の手紙をプリントアウトすると、被害妄想に悩んでいるコナー・マーフィーが現れます。裕福な家庭で何不自由なく育った彼もまた、学校と家庭で孤独に打ちひしがれていました。彼はたった今エヴァンがプリントアウトした手紙を持っていました。

なぜかコナーはギプスに名前を書いてやると言って名前を書いてくれますが、手紙の中にエヴァンが密かに想いを寄せるコナーの妹の話が書いてあったことから、エヴァンも自分を変な奴だと思っていると誤解し、その手紙を握りしめたまま教室を出て行きます。

翌日、エヴァンが診察をうけに病院へ行くと、コナーの両親のマーフィー夫妻が。マーフィー氏は息子のコナーが自殺を図って亡くなったことを話します。そして、コナーはエヴァンに宛てに遺書を残していたとエヴァンにその手紙を見せます。コナーの事を何も知らなかった両親には、エヴァンが息子の友達に違いないとその手紙を見て信じ込んでいます。エヴァンがそれは誤解だと説明しようとしても、エヴァンのギプスにはコナーの名前が大きく書いてありました。

嘆き悲しむマーフィー夫妻を元気付けようと、一生懸命自分が唯一無二の秘密の友人だったと嘘をつきます。学校で唯一話す程度の友達のジャレッドと、架空のメールのやり取りを作り出します。エヴァンはそのメールを見せるためにコナーの両親の家を訪ねる様になり、マーフィー夫妻はエヴァンを息子の様に思い始め、妹のゾーイとも相思相愛に。

すうこうする内に、アレーナという慈善事業やファンドレイジングに興味のある生徒も加わって、最初はコナーの家族を慰める話が学校でコナーの追悼集会に発展し、コナーの名前を記した記念並木植樹のための基金設立プロジェクトに発展。エヴァンの学校で行われた感動的な追悼集会でのスピーチがSNSの基金設立プロジェクトページで公開されると、瞬く間に世界中にこのコナーとエヴァンの友情物語が拡散され、お金がドンドン集まり、エヴァンも時の人に。

さて、毎日忙しく働いてそんな少しも知らないエヴァンのお母さんの耳にも、自殺したコナーとエヴァンの友情という寝耳に水の話が飛び込んできます。人間不信の息子が信じられない様なイベントの中心人物である事、さらにエヴァンが金銭的に大学に進学するのが困難である事を知ったマーフィー夫妻から、大学進学費用の提供を打診されます。

息子を独りで育ててきたエヴァンのお母さんは、自分だけ蚊帳の外であったことにとても傷つきます。そして、ゾーイとハッピーな毎日を送っていたエヴァンは、自分が中心になって進めていたコナー並木植樹基金プロジェクトをおろそかにする様になります。ジャレッドが離れていき、アレーナがSNSでやりたい放題。

最後にはマーフィー家族とエヴァンだけが知っている、”コナーの最期の手紙(エヴァンが自分に書いた手紙)”が、アクセス率が落ちて危機感を感じていたアレーナによって、SNSのファンドレイジングのページで公開されてしまいます。

マーフィー一家はショックに打ちひしがれ、一体誰がこの手紙を公開したのか疑心暗鬼になります。エヴァンは"Dear Evan Hansen, ..."から始まるその手紙の真実を語りはじめます。。。

**大団円は劇場で観てね**


この物語はとっても今時なテーマだと思います。家族、自殺、学校、SNS、孤独、離婚、教育。インターネットやSNSなど、コミュニケーションツールが増えた一方で、もっとも身近な生身の人間、家族、クラス、友達、コミュニティーとのふれあいや、会話が減っている事を思い知らされます。

劇中で今の社会風潮をよく表しているアレーナのセリフが、とても印象に残っています。

「よく知らない存在の薄い生徒の死のおかげで、このまとまりのない学校の生徒達が今はみんなが彼の友達だったと言って、彼の事を話して、団結して一つのイベントを成し遂げようとしているの。」

私の感想は以下です。


  • 現代版狼少年の話かな?というのが私の第一印象。
  • 音楽は私が好きな感じではなく、見応えのあるダンスは無いので華やかさは無いが、芝居としてはユニークで完成度が高い。
  • 高校生らしい、かなり毒のあるジョークの効いたセリフも多く、英語が理解できると尚更楽しめる。
  • 私の中で一番印象に残ったのは2幕でエヴァンの母親役(Lisa Brescia)の歌った"So Big/So Small"。彼女の渾身のソロ歌唱で、歌詞も良く自然に涙がこぼれた。
  • ゾーイ役のMallory Bechtelは声が良く、歌が上手、コナー役のAlex Bonielloは共演者の芝居とリンクしながら歌う難しいアレンジを見事にこなしていた。


一緒に行った友達は同じ年頃の息子さんがいるからか、もう2幕からは号泣だったそうです。エヴァンが真実を語り出すところから、客席のあちこちでですすり泣きが聞こえてましたからね。2017年、トニー賞Best Musical他5部門受賞作品です。

英語がわかる人で、思春期のお子さんがいる方や中学高校生にはお勧めしたいミュージカルです。

ショーの後はずーっと立っていたからかお腹がペコペコで、51丁目のヘルズキッチンのお気に入りのイタリアン、Ariaへ。時間的に空いていたので、ワインを飲みながら、ショーの感想をあれこれ語りあい、ステーキも頼んでお腹も大満足でした。

イワシの前菜
パスタはタリアテッレのボロネーゼ
レアステーキはほうれん草のソテーの上に鎮座
ジャガイモのロースト添え